インターネット講座 [角川インターネット講座]

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KADOKAWA・DWANGO統合記念出版 刊行記念「角川インターネット講座」の作り方 【インタビュー】「角川インターネット講座」全15巻 遠藤 諭(角川アスキー総合研究所 主席研究員)×郡司 聡(角川学芸出版 ブランドカンパニー長「週間読書人」より
朝起きてスマホでニュースを読む。友人とメールをする。会社では資料のやり取りをPCで行う。
一日を振り返れば、ネット愛好家でなくとも何かしらインターネットに触れる時間が大半である。
にも関わらず、私たちはあまりにもインターネットのことを知らない――そういった問題意識から、インターネットに関する膨大なトピックをその分野の第一人者が解説する「角川インターネット講座」が誕生した。
インターネットのインフラから、インターネットを支える理念、インターネットによって生まれた文化、インターネット上で繰り広げられるサイバー戦争などのトピックが、15巻にまとめられた現代人必携ともいえるシリーズである。
 10月1日に誕生した「KADOKAWA・DWANGO」の、ブランドカンパニーの一つである角川学芸出版から刊行されるが、この刊行を機に、プロジェクトを率いた遠藤 諭氏(角川アスキー総合研究所 主席研究員)と、郡司 聡氏(角川学芸出版 ブランドカンパニー長)のお二人にお話を伺った。
取材・文・撮影|安藤奈々(週刊読書人 )


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——村井純さんの「インターネットの基礎」の巻を拝読し、人知れず進められてきたインターネット研究者たちの涙ぐましい努力に驚きました。
今、当たり前のように使っているインターネットですが、人の手がゼロから生み出したものであることや、「人類でグローバル空間を共有する」という壮大な理念に触れられて、使う側ももう少しきちんとした使い方をしなくてはいけないな、と改めて思いました。この長大な講座を刊行するいきさつ、動機を教えてください。

遠藤 「こういうものが必要だよね」という角川歴彦会長の鶴の一声です(笑)。
どういうことかと言うと、インターネットが商用化された90年代初頭からわずか20年あまりで、生活のあらゆる部分にネットが関わるようになりました。その変わりようは凄まじいです。あらゆるところで、ネットがまるで空気や大地に近いインフラになっていったのに、ネットについては誰もきちんと教えてくれないんですよね。
BI(BEFORE INTERNET)の時代に関しては、過去にどういうことがあって、世の中はこのように出来ているということを義務教育でも教えてくれるし、専門的な教育を行う体系はしっかりあるじゃないですか。にもかかわらず、今の世の中を圧倒的にドライブしているインターネットに関しては、それが足りないということです。
 良いか悪いかは別にして、今色々な形でインターネットが浸透していますよね。
角川アスキー総研での調査によると、20代前半の女性は起きている時間の5分の1くらいスマホをいじっている。当然スマホの向こうにはクラウドがあって、つまりネットがある。脅かそうというのでは全くないのですが、これだけ生活にも社会にも密接に関係しているのであればインターネットの勉強は必要なはずなのですよね。
デジタル教育、国家的な競争力や個人の競争力という点でも意味があるだろうし、現実がもしデジタルやネットで動いているのだとすると、現実を正しく認識している同士でなければ話も通じないし、誤解も生まれてしまうでしょう。
アメリカでは80年代のレーガン政権時代の教育改革で、コンピューターが小学校にまで導入されていった。同じような時期にシンガポールや韓国も入っていったのに、日本はそうならなかった。日本の社会人のインターネットやデジタルに関する認識は、そういうこともあり高いとは言い難い。ここできちんと勉強してみましょうということです。
 ネット技術は確かにものすごい勢いで動いていますが、すこし一段落している感もあるんです。
インターネットの仕組みが出てきて、99年にiモードによって携帯がネットに繋がり、その頃の世帯普及率が20%だったのが、2006年頃には60%というスピードで広がった。そしてモバイルの時代に入り、あらゆるものがネットに繋がり得るという未来がだいたい見えてきた。
ということで、少し高い視点でも、一旦きちんと議論をしようということでもあります。

郡司 今がちょうどよいタイミングなんですよ。技術的にも踊り場で、今ならスタティックにできる。
あと10年もすると、語れなくなってしまう項目が相当ある。当事者がいなくなったり、サイトに辿りつけなくなったり。
インターネットの世界というのは、あまり記録が残っていないんですよ。アーカイブで残っているように思うけれども、10年前のホームページは見ることができない。でも今なら、ギリギリ辿れる。
角川会長も今起こっている情報革命を産業革命の時代と重ねて見ています。そうすると、産業革命の頃の資料は結構残っているのに比べ、インターネットの情報はWeb上に蓄積されていたはずなのに、もう見られないものも非常に多い。500年前のグーテンベルクの紙は残っているけれど、20年前のインターネットは見られないんです。だから紙の本で出す意味があるのだと思うんですよね。

遠藤 紙で15巻を出す意味は、固定化する意味もありますよね。
紙で情報を固定することで、それを基準にして初めて議論ができるというのがありますよね。延々と意見が流れていってしまうのではなくて、一冊の本を基準に色々な議論が生まれてくる。紙の本というのはそういう機能を象徴する部分があるのではないでしょうか?
 もう1つは、今の時点のネットの状況を15巻で記録すること自体に意味があると思っています。
インターネットによってすべてが変わった。次の進化の方向も見えてきている。次の議論を始めるためにも、現状の課題の洗い出しと、この20年間を記録する作業はとても大事であるということが、角川会長の思惑でありこのシリーズの動機です。

――現状の課題の洗い出しの結果が各巻のタイトルになっているのですね。

郡司 そうです。6、7人のメンバーで過去のバズワードや、思いつくトピックをホワイトボード上に書き出していくという超アナログな方法で洗い出しました。
色々な項目をどうグルーピングしていくかというのが一番難しくて、パズルみたいな作業でしたね。まんべんなく入れつつも、先鋭化したテーマはアンバランスを恐れずに本にしようと。
例えば「サイバー戦争」という巻がありますが、これは外交とか、政治をテーマにした巻の一部として扱うこともできる訳ですが、そこは普通のカテゴライズではなくて、一巻として立てなくてはいけないという問題意識がありました。

遠藤 図書館分類的な網羅性を狙っていないですよ。
トピック主義と言うか、これだけの歴史的といえる変化の様子は壮大なエンターテインメントでもあるわけで、その意味では楽しく読めるものにもなるはずだということなんです。
結果的に社会的なテーマと技術的なテーマがごっちゃになっているという構成にはなっていると思います。

郡司 未来予測はしなくていいんじゃないか、というのは基本方針にありました。
それをやってしまうと15巻出し終えるまでにどんどん変わってしまうので。ただ過去を見ていくと自ずと流れが見えてくる部分もありますね。
 「「丸山眞男」をひっぱたきたい 31歳フリーター。希望は、戦争。」という文章で注目された赤木智弘さんはネットによって誕生したわけですが、今日でも何も変わっていないですよね。
日本の大学生がインターネット上で情報を集め、イスラム国へ戦争に行こうとする時代がまさかやってくるとはね。
イスラム国は兵士集めをもうほとんどSNSなどネットを使って行っているらしいですし、動画でバンバン宣伝する団体なんて、インターネットがなければあり得ませんよね。

――そういう点では、今のインターネットは良いことよりも恐ろしいことが多いように思えます。

郡司 そうですね。そのようなネガティブな側面に対して臆せず触れているシリーズです。
一つの巻に7、8人の書き手に書いてもらっていますが、意見が対立することももちろんあって、決して仲良しチームでまとめたわけではなく、むしろ呉越同舟(笑)。

遠藤 まあ、実際に相当に厳しい現実があります。
サイバー戦争はすでに起きていると言ってよい状況ですし、デジタルデバイスもものすごい勢いで進化していて、この部屋にいきなり数十グラムの超小型の模型ヘリコプターが爆弾を運んできてもおかしくないような技術もできてきている。
 あるいはグーグルやアマゾン、アップルといった巨大プラットフォーマーに日本はどう対抗していくのか、という問題もあります。中国やアメリカではネット通販によってジャンルによってはリアルな店舗がどんどん無くなっているというニュースもあるわけです。
日本だって同じ道を辿る可能性がとても高いのです。本当はものすごく危機感を持たなくてはいけない部分もあると思います。
 ネット社会は良いところもたくさんあるけれど、非常に容赦ないところも、もの凄くある。そういうことを真剣に議論にしたり、発見したりするためにも、ネットの現実を基本的なところから理解しておく方がよい。
今、何が起こっているのか。輝かしい未来を待つだけでもいけないし、悲観的になってもしょうがないので、まずは事実を知ることから始めましょう、ということです。

――どのような方に読んでもらいたいですか。

郡司 大学生だと遅いかもしれないので、高校生に読んでほしいな。
進路を決める前にこのシリーズを読んでもらって、何がしたいか、と考えてもいいんじゃないかな。
それぞれのジャンルのトップの方に書いてもらってはいるけれど、そんなに分かりにくくない。今まで関心がなかった方でも、その気になれば読める内容だと思います。
陳腐化するようなテクノロジーの話は、極力排除していますし、例えば村井先生の巻であれば自律分散協調システムだったり、オープンネスだったり、インターネットの根幹を支える思想と考え方の枠組みを自然に学べるようになっています。

遠藤 僕はあらゆる社長に読んでもらいたいですね。
インターネットというのはもう一個の社会といってもいいじゃないですか。
90年代半ばにネットが広がりはじめたときに、企業では組織のフラット化が進むというようなことが言われたわけですけれど、そのフラット化の正体がメールのCCだけであったりした(笑)。
ネットの本質はコミュニケーションや人の繋がりという意味での組織ととても深く関係していて、そうしたことは実はあまり理解されていないところがあるのではないでしょうか?
 日本の会社が元気になるためにも組織のトップにいる人は読んでほしいし、部下に読めと言ってほしい。

――紙の本と、電子書籍と、リアルイベントと、ネット講座という四つのアプローチでこのシリーズを展開するそうですね。

遠藤 今は学びのメカニズムも変わってきているタイミングなんですね。
ネットで情報を得ることと、リアルに人が触れあって学ぶことと、オンラインで学ぶことと、多元的になっていて、今回チャレンジするのは「反転学習」のようなものです。
情報を得ることは先に各人がやっておき、実際の生の授業ではそれを元に意見交換したり、より創造的なことをしましょうというものですけれど、この反転学習のようなものにリアル講座をしたいと思っています。
だから本を買って読んでもらい、著者の生の講演を聞いてもらう。本に書き切れなかった、あるいは見方を変えた生の情報に触れてもらい、直接色々な意見を交換してもらいたい。このイベントはその意味で「THESALON」と名付けているのですが、東京での開催となりますので、一部をネット配信します。

郡司 読んでみてどうしても納得がいかない点など、実際に著者とやり取りして、フィードバックされて、それがネット上で伝わっていけばいいなと。ネット上で繋がっていけば、本と言う静的なものが動的に広がっていく。とにかく、監修者の先生方はもう見ている景色が全然違うんですよね。来た人は本当に良い経験になると思います。

――スタートに漕ぎつけた「インターネット講座」の企画を振り返って、どのような感想をお持ちですか。

郡司 打ち合わせに行って話をしている相手はそのジャンルの第一人者で、とてもクリエイティブだし、発想も面白いし、打ち合わせ自体がとても楽しかったですね。
話も弾んだし、自分の引き出しがどんどん開いていったし、あの打ち合わせの楽しい時間を紙面で読者とシェア出来たらいいなという気持ちでやってきました。最初にこの企画に立ち会った時の楽しかった時間、そのエネルギーは失いたくないなと。

遠藤 はじめ村井さんの原稿が届いたときに読んで、ここまで語っていただいたんだ、と少々驚いたんですよ。ここまでする必要あるのかと思えるくらい細かいことがたくさん書いてある。それは、実はものすごい贅沢なことだと思うんですよね。
特にインターネットのジャンルは早わかり本みたいな本が多いわけですけれど、本当に重要なのは、新しいパラダイムはどのようにして生まれるのか、新しい技術が出てきたときに人々はどう対応するか、社会はどう動くのかという見えないルールのようなことなんですね。それは、こんなふうに語るしかないんだと思いました。
 余談になりますが、村井さんという人はなにかそういうもの動かす質量の塊みたいなところがあるんですね。台風のようにやって来て、磁場を狂わすようなエネルギーがあると僕は思っています(笑)。

郡司 監修者の方々、書き手の方々、皆さんこの企画への関わり方が生半可じゃないですよ。体重かけて積極的にコミットしてくれていると感じますね。

遠藤 なんだかんだ言っても、やはり今は誰にとってもものすごくチャンスがあると思うんです。ネットで世の中が変わって、土台が出来たのですから。
世界が変わらなくて、個人というものが世の中の仕組みや大きな組織に押しつぶされそうな時代もあった、そういう時代に比べたらネットは個人の武器にもなるし企業の武器にもなるし、クリエイターだってチャンスがあるし、使わない手はないじゃないですか。

郡司 そういう考え方の巻もあるし、そうではない考え方の巻もあります(笑)。

   「角川インターネット講座」全15巻 本シリーズは代表監修者である村井純、伊藤穣一、川上量生、まつもとゆきひろをはじめとする、日本各界のトップランナーがそれぞれ監修&執筆を担当。労働革命からSNS、知的財産、ビッグデータ、そしてサイバー戦争まで、現代の新地平を展望する最高の執筆陣が集結している。