インターネット講座 [角川インターネット講座]

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KADOKAWA・DWANGO統合記念出版 刊行記念「角川インターネット講座」の作り方 【インタビュー】「角川インターネット講座」全15巻 インターネットの父 村井純 代表監修「本の旅人 1月号」より

未来を創るすべての人に読んでもらいたいーー。
インターネットの原型となる通信網を国内に築いた村井氏は、そう語る。
「角川インターネット講座」は文化、経済、社会など現代の森羅万象に
インターネットという観点から切り込む全集企画。

その代表編集者の一人である村井氏に聞いた。

取材・文|赤嶋映子 撮影|野口 彈 協力|Mozilla Japan


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活版印刷、蒸気機関、無線技術。技術と社会の仕組みとは、相互に影響しあい、歩調を合わせるように変化してきた。20世紀に誕生したインターネットという技術はどのようにパラダイムシフトを起こしたか。そして誰もが「ネット」をあたりまえに使えるようになったいま、これからの社会はどう変えられるか。研究者、実業家、ジャーナリストなど、きわめて多彩な執筆陣が結集した「角川インターネット全集」には、そのための〝知〟が収められている。

——とても広範な分野のトップランナーによるこの全集、どのようなことを意図して編まれているのでしょうか?


村井 いまはみんな、ネットをあたりまえのように使っていますよね? まるで空気のように、存在は意識しないで。実は、これはすごいことなんです。そういう社会を、インターネット前提社会と呼んでいます。この全集をひとことでまとめれば、ネットがあることを前提にして、いままでの既成の概念や制約をいったん全部とっぱらい、本当はどうありたかったのか、どうできるのか、理想を追求してみようということなんです。

 産業も、教育も、メディアも、国家も、ネットはすべての分野の足がかりになってきています。単にこれまでの方法をデジタルデータやコンピューターでなぞるのではなく、根本に立ち返って新しくしたらどんな未来を創っていけるのか、必要な知識と議論をこの全集に集めています。  
 いまはまったく新しいものをつくることに、あんまり抵抗感がなくなったんだよということを、誰にでも、どんな分野の人にも伝えたい。私が担当した『インターネットの基礎』という第1巻は、そういう根っこの部分なんです。その上で、本当に多彩な人たちが、蓄えた知見、論考を多方向から重ねています。

——何かきっかけとなった出来事があるのでしょうか?


村井 2011年の東日本大震災です。震災、そして原発の事故が起きたあと、知っている情報を伝えよう、何か自分にできることはないかと、誰もがSNSなどを通じて力を出しあっていました。
 その時点で、日本ではスマートフォンなどのモバイル機器がすでに普及していたんですね。すべての人が無意識のうちにネットを使う社会になっている。これを前提に新しい社会をつくる時なんだということを、2011年から学んだと思います。後に角川歴彦会長とお話しして、その思いが講座というかたちで編むという方向で熟成されていきました。インターネットの誕生から約半世紀、本格的な商用化から20年が経っています。いまその経緯や歴史を含めて、現状の展望を、まさに当事者の手で書籍というかたちでまとめておくことには大きな意義があります。

——確かにネットが誕生して以来、多くのものが変化しました。世界的なエコノミー、つまりビジネスの方法論もそうですが、社会の仕組み自体が変わってきています。


村井 いまエコノミーと言いましたよね。僕らはエコノミーを証拠として使うんです。経済成長ができると思えば、インターネットによるグローバルな空間を保つことを投資という形でみんなが支えます。でも、それよりずっと大事なことがある。それは人間です。モノでも生産性でもない。ひとりひとりがどんな動機で、何をやり、どうやって生きていくか、それ自体が人間社会の大きな財産です。テクノロジーがあるのは人間のため。人がネットでつながるのは、人が社会を形づくっているから。ネットはそのためのテクノロジーです。人を尊重し、人の能力を出せるようにして、人の創造性がさらに新しいものを生む。その基盤になる。だからこのシリーズでずばり言いたいことは、「人と社会」なんです。

 人が資源だとすれば、性格の良い人、おもしろい人、アタマの良い人、無茶する人、そういう多様さがすなわち資源になります。日本はわりと粒揃いだと言われているけれど、そのあたりをもう少し解放すると、資源大国だという考え方もできます。

——インターネットは新しい創造を促す基盤だというお話でしたが、ネット自体もそれまでにない新しいものとして生まれ、成長の過程では既存の仕組みの「壁」にぶつかってきました。


村井 インターネットは理想論から始まっています。当時すでに電話もテレビも無線もありましたが、どうしたら効率が良くて障害に強い通信ができるか、ひょっとしたらデジタル化した文字や音声をパケット通信という共通の方法で送れるのではないか、というところから出発したわけです。共通の仕組みを使ってあらゆるデータ、文章や音声や絵や動画を送ることができれば、人間のコミュニケーションの可能性はもっと広がりますよね。インフラ設備にかかるコスト構造を考えるよりも先に、そう考えていたんです。


 理想論というのは、たいがい既存の方法からはぶっとんでいるものなので、つくっているときにそれが世の中にどういうインパクトを与えるかはわかりません。けれどもできてみると、自分たちもネットを使いたいという輪がものすごい勢いで広がっていった。


 現行から飛躍した理想論というのは、現行の方法を小刻みに改良していこうとする流れからはすごく抵抗があるんです。法律やビジネスモデルが合わなくなってくるというように。でも、やってみると、おもしろい、たいへん役に立つという強い支持が、結局はものすごい推進力になった。世界中のコンピューターがつながってデジタル情報が流通するという理想は、そのうちに思いのほか早く実現できたというのが経緯なんです。


 そして人間のあらゆる営みがデジタル化された環境に移ってみると、データは国境なんか通り抜けていくので、ネットは人類すべてに共通のグローバルな空間を形づくった。あとは、そこにどういう社会を創るかということが重要です。


 インターネットの経験でも、成長するときの痛みが社会のあちこちで感じられています。ただその痛みも、一方的に耐え忍ぶのではなく、これを利用して自分たちはどうすべきかというような、楽観的、積極的な方向で痛みを解消する方法、希望は提供できていると思う。テクノロジーがつくる基盤は、そういったものの可能性を内包しているんですよ。

——インターネットは新しい創造を促す基盤だというお話でしたが、ネット自体もそれまでにない新しいものとして生まれ、成長の過程では既存の仕組みの「壁」にぶつかってきました。


村井 はい。そして、15人の監修者、100人以上の執筆者が集まるこの講座には、これからの社会を創造するための“知”が、とてもたくさん集められています。未来を創っていくすべての人に、ぜひこの「角川インターネット講座」を読んでもらいたいと思います。

〈2014年11月21日 Mozilla Japan にて〉

   「角川インターネット講座」全15巻 本シリーズは代表監修者である村井純、伊藤穣一、川上量生、まつもとゆきひろをはじめとする、日本各界のトップランナーがそれぞれ監修&執筆を担当。労働革命からSNS、知的財産、ビッグデータ、そしてサイバー戦争まで、現代の新地平を展望する最高の執筆陣が集結している。